
【フリーランスの生成 AI 活用術】エンジニアの毎日を変えたツールと使い方
ChatGPT の登場から早3年。いまやフリーランスにとっては、「生成 AI を使えるかどうか」ではなく、どう成果につなげ、自身の価値を高めるかが問われています。実際、この1〜2年でクライアントから求められる役割や案件内容そのものの変化を感じ、AI との共存を模索している人も多いのではないでしょうか。
仕事が途切れないフリーランスの仕事術から、活躍のヒントを探る本シリーズ。今回話を聞いたのは、フルスタックエンジニアとして生成 AI を活用した Web アプリケーション開発などに携わる、フリーランス歴9年の遠藤孝行さんです。
「生成 AI を活用するようになって、案件は増え続ける一方です。先への不安?まったくないですね」―― そうきっぱりと言い切る遠藤さんの姿勢から見えてきたのは、AI に仕事を奪われる未来ではなく、ハイスキルフリーランスが活躍の場を広げる未来でした。
🎙遠藤孝行さん(フルスタックエンジニア/AI エンジニア/プロダクトマネージャー)
都内の SIer でシステムエンジニアとして勤務後、2016年に地元・福島へ戻り社団法人を設立。子どもたちへのプログラミング教育や地域活性化に取り組む。2019年に株式会社アウレを創業し、Web アプリケーション開発や EC サイト構築、飲食店やゲストハウス運営、YouTube チャンネル運営など事業を多角的に展開。現在はフルスタックエンジニアとして新規プロダクトの立ち上げに携わりつつ、地域の子どもたちの教育活動にも注力している。
精度を高めるためには「コンテキスト」の理解が不可欠
「東日本大震災のときに何もできなかった後悔があったから」と、東京の SIer を辞めて地元の福島に戻った理由を語る遠藤さん。現在はフルスタックエンジニアとして活動しながら、週末には小中学生にプログラミングを教えています。
「のびのび育ててもらった福島に恩返しがしたいと思い、独立後すぐにプログラミング教育の事業を始めました。ただ教室運営だけでは事業として厳しく、エンジニアの仕事を収益の柱としています」
キャリアの始まりは企業のシステム運用でしたが、最近では0→1(ゼロイチ)のプロダクト開発案件が中心に。企画から実装までを一貫して担うようになった遠藤さんにとって欠かせないのが、生成 AI です。
「ChatGPT がリリースされてから、AI を使わない日はありません。簡単なモックアップなら僕だけで数日で仕上げられるので、メンバーやクライアントとの意思決定が早まり、プロジェクト全体の進行が速くなりました。コーディングに割いていた時間は大幅に減り、今ではコード生成の待ち時間に9か月の息子をあやしたり掃除をしたり。この数年で、時間の使い方はがらっと変わりました」
場面ごとに複数の AI ツールを使い分けている遠藤さんですが、効果を最大限に引き出すために意識しているのは「コンテキスト」。つまり、「生成に必要な意図や背景の情報を理解させること」だといいます。
「AI は世の中にある一般情報は整理できますが、僕が何を考え、どんな背景で AI を使っているのか、固有の情報は当然知りません。たとえば新規プロジェクトで、『このクライアントはシンプルな UI を好む』といった文脈が情報としてなければ、期待するアウトプットは得られないんです」

会話のログを AI の文脈理解の材料に
その文脈を補う手段として、遠藤さんは普段から会議やミーティング内容をデジタルデータで残しています。具体的には、オンライン会議の録画と自動要約ができる AI ツール、tl;dv を活用。許諾を得たうえで、打ち合わせを録画しているといいます。
「会話内容をログとして残しておけば、詳細なコンテキストとして AI にすぐに渡せます。要するに、プロジェクトの事情などを理解させるための材料になるんです」
tl;dv は Zoom や Google Meet などの主要な会議プラットフォームと連携できるため、ほとんどのオンライン会議に対応可能。文字起こし機能によって、「打ち合わせ中にメモを取る必要が減った」と話す遠藤さん。会話中に手を動かさずに済むので、画面と会話に集中できるというメリットも。内容を振り返りたいときは AI がまとめた要点の確認や、キーワード検索で該当部分を抽出して動画を見返しているそうです。
「特にクライアントから抽象的な表現でオーダーがあった場合、その発言の前後を確認しながら理解を深めることが大切です。抽象度の高いまま AI に指示しても適切なアウトプットは得られません。自分自身が依頼されたタスクの解像度が高く、完成イメージが明確であればあるほど、AI にとっても有効な背景情報として機能します」
こうして積み重ねたログは単なる記録にとどまらず、「AI に自分の思考や判断基準を理解させることにも役立っている」と遠藤さんは加えます。
新しい技術は常に追いかけ、どんどん試す
生成 AI の技術進化は目まぐるしく、新ツールは次々に登場、翌週にはもうアップデートされていることも。そんな変化の速い環境で働く遠藤さんは、「その時々でベストな AI ツールや機能を選びたい」というスタンスを強調します。
そのため日常的に AI 関連のニュースに目を通し、仕事仲間との情報交換も欠かしません。そして新しい AI ツールや機能を「とにかく一度は触る」と決めているそうです。
「どんどん試してツールの強みを把握し、どの業務が効率化できるかを常に考えています」
また、生成 AI の活用によって「できること」が増えた反面、その逆もあるといいます。
「コードを自分で書く必要がなくなったので、コーディング能力の低下は実感しています。でも、それでいいと思うんです。できなくなったことにこだわるより、自分にしかできないこと、たとえばゼロからアイデアを生み出すなど、プロジェクトの根幹に関わる部分に注力していきたいです」
仕事中の遠藤さん
ただ、遠藤さんのように AI の進化を「可能性が広がる」と前向きに受け止めるエンジニアがいる一方、AI に抵抗を感じる人も。その背景について遠藤さんは、「認めたくない気持ちがあるのでは」と指摘します。
「積み重ねてきたスキルが代替され、これまでのキャリアを否定されたように感じてしまう。そんな不安は、特にキャリアの長い方ほど抱きやすいかもしれません。
AI はあくまで人間の能力を拡張してくれるツールです。つまり、これまで実績や経験を積み重ねてきたシニアエンジニアが AI を使うのと、経験の少ないジュニアエンジニアが AI を使うのとではパフォーマンスに雲泥の差があります。実績のある方こそ、 AI の強みを理解して使いこなすことが重要だと思います」
背伸びしてでも挑戦を続ければ「なんとかなる」
そして遠藤さんは、これから先フリーランスとして活躍し続けるには、「社会のニーズに応えることが大切」だと話します。
「今、AI 関連の案件は急増しているんです。特に生成 AI を活用した RAG(Retrieval-Augmented Generation/検索拡張生成)システムの開発や、業務特化型のエージェント構築の依頼が目立ちます。企業が自社システムに AI を組み込み、業務改善を進めようとする流れのなかで一度でも実績を作れば、継続的に声をかけてもらえますね」
とはいえ、案件によっては経験が浅い AI 領域もあります。それでも遠藤さんは「背伸びをしてでもトライする」と断言。「あまり触ったことがないツールや技術だとしても、とりあえず1日でも試せば OK としています(笑)。挑戦もせずに機会を逃すほうが、よほどもったいないです」
あえて背伸びして自分を成長させる。そのマインドさえ忘れなければ、環境が大きく変化しても「なんとかなる」と遠藤さんは笑います。行動力に加え、新たな技術に触れることを「ワクワクする」と感じる好奇心が、その言葉の裏付けになっているのでしょう。
そして、「生成 AI を活用したプロダクトをどんどん生み出していきたい」とこれからの展望を話す遠藤さん。AI との向き合い方をこう締めくくります。
「AI は人の時間を生み出すためにあると思っています。その時間を、子育てや地元への還元など、自分が心からやりたいことにもっと費やしていきたいですね」。
Writer / Shinobu Takayama
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Editor / Yuna Park
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