仕事と介護、私の両立—フリーランスならではの工夫と注意点 Article Image

仕事と介護、私の両立—フリーランスならではの工夫と注意点

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「親は少しずつ老い、介護も少しずつ始まる」とは限りません。親が急に倒れたり、介護を担ってくれていた家族との関係性が変化したりして、突然「仕事と介護の両立」が始まることもあります。それは会社員でも、フリーランスでも、どんな働き方をしていても関係なく訪れるものです。

私が父の介護を担うことになったのは、30代半ばの頃。会社を辞め、育児をしながらフリーランスとして再出発しようとしていた時期でした。離れて暮らす父の入退院や施設入居の手配、入居後のやりとりなど、遠隔で支える介護です。直接介助する機会はないものの、手続きや判断することが絶えずありました。

フリーランスには、介護休業や介護給付金といった制度の支えがありません。働き方の相談に乗ってくれる人事担当者もいなければ、介護の経験を教えてくれる同僚もいません。当時の私は、何が起こるか、どうすればいいのかもわからないまま、まさに体当たりで仕事と介護の両立になだれ込みました。

それでも、「介護に自分の人生をひきずられまい」とだけは心に決めていました。仕事と育児を両立した経験を通して、「家族のケアと自分自身のことは分けて考えた方が自分を保てる」と学んでいたからです。降りかかる困難と向き合い、自ら攻略しているのだというスタンスでいたから、折れずに進んでいくことができました。

制度や会社の支えはないけれど、フリーランスには自分で働き方を設計できる自由があります。その自由を生かして、仕事と介護は両立できる――ここでは、私が経験からつかんだポイントを、「時間」「コミュニケーション」「メンタル」の3つの切り口でお伝えします。

【時間】配分の主導権は自分が持つ

会社員のように介護休業を取ったり、同僚に仕事を引き継いだり、ということができないのがフリーランスの現実です。

けれどもそのぶん、時間の使い方を自分で決められる裁量があります。介護では、役所への問い合わせや介護事業者との相談など、平日日中にしなければならない対応がたびたびあります。そんなときにも、どの時間を何に使うかの主導権を手放さないことで私は自分の生活リズムを守れました。

制度の「外側にいる」代わりに、自分の裁量で設計できる時間を持っている――それはフリーランスだからこそ介護で発揮できた強みでした。

折れずに続けられる仕事量を保つ

介護関連で断続的に時間を奪われる状態がいつまで続くか読めなかったので、量が多い・納期が短いといったまとまった時間集中が必要な案件は報酬が良くても無理して引き受けないようにしました。

ただ、チャレンジしたい内容の案件まで断るのはストレスだったので、「これだけは無理する」と決めて引き受けました。感覚でいうと、介護がなければ100仕事ができたとして、介護が始まった時期は60くらいに抑え、チャレンジしたい案件が来たら90くらいまで広げる、というイメージです。今振り返ると「もうちょっと引き受けられたかな」とも感じますが、気持ちの余裕を保てたおかげで、生活面で無理することなく、仕事の成果物の質も落とさずに済みました。何より、父にむやみにきつく当たらずにいられてよかったと思います。

もし会社員だったら、「離職するか否か」といった0か100かの二択になっていたかもしれません。その点、フリーランスは仕事の量やペースを自分で調整できるため、「0と100」の間に無数のグラデーションがあります。このフリーランスならではの柔軟性のおかげで、キャリアが途絶えずに済んだように思います。

介護対応をスキマ時間でこなせる手段を見つける

日常のリズムを変えず、介護の用事にスキマ時間で対応することは「介護に振り回されている」という感覚を持たないために有効でした。それには、対応のタイミングを自分でコントロールできる手段を選ぶことが重要です。

たとえば、役所の手続きに関する郵送物は自分の家に送られるように設定しておくと実家に取りに行く手間が省けますし、介護用品などの注文もやりやすい方法に変えられる場合があります。私の場合、初めは FAX 注文を案内されましたが、使い慣れたネットショップから同じものを注文するように変更しました。短時間で済み、対応の負担がぐっと減りました。

電話対応を極力なくす

介護関連の連絡ではとにかく電話がかかってきます。私は留守番電話サービスに入っていなかったので、内容の緊急度・重要度は電話に出てみないとわからず、電話が取れずにあとで着信履歴だけを見てモヤモヤすることが何度もありました。さっさと留守番電話を設定しておけばよかったと思います。

よく連絡を受ける相手には、電話が取れないときにはショートメッセージを使ってもらうようにもお願いしました。内容の記録も残るので、ストレスがかなり軽減されました。

しかし、最も「電話」で悩ませてきたのはほかならぬ父でした。些細なことでも昼夜問わずかかってくる電話にストレスを感じていた私は、施設入居のタイミングで父の携帯電話を解約しました。父に「携帯電話はどこだ」と聞かれたときには「携帯?この世にそんなものはないよ」と携帯電話の概念そのものを否定。緊急性の低い、話したいだけのことはハガキを書くようにしてもらいました。

もっと抵抗されるかと思いましたが、案外おとなしくハガキを書いてくれ、読んだらこちらから施設に電話して父と雑談するという形に落ち着きました。緊急の連絡は施設の職員から来るので、問題なくこの形を続けられました。

📍フリーランスでよかったこと
会社員の場合、平日日中の役所手続きや介護事業者との相談などには介護休業を利用して対応します。一方、フリーランスのわたしは仕事量を自分で調整できるだけでなく時間の使い方も自分で決められるため、休みを取って対応する必要はありませんでした。また、100%リモートワークができる体制を日頃から整えていたおかげで、介護で帰省した先でも作業や打ち合わせを続けることができ、結果として引き受けた仕事にはほぼ影響を出さずに済みました。

【コミュニケーション】相手ごとに距離感を見極める

介護が始まると、コミュニケーションの量と質が変わりました。ケアマネジャーや介護士など新たな関係者が増える「量の変化」と、仕事相手や家族・親族・友人など、これまで関わってきた人との関係性に介護がもたらす「質の変化」です。

私はこと介護に関しては、誰が相手でもまずは自分の事情を話しまくるようにしていました。話すことで自分の気持ちの整理になったし、介護の話をきっかけに信頼できる関係を築けたり、心地よい距離感を見極めたりできたのです。

仕事相手に対して…誠実にリスクを見せる

介護が理由で突発的に優先度の高いタスクが割り込んでくる状況は、仕事においてはリスクです。介護はプライベートな話題ですが、私は自分のリスク開示と考えて、仕事相手にもなるべく早い段階で父の介護のことを話題に出すようにしていました。

実際には、介護が仕事に重大な影響を出したことはほとんどなく、むしろ仕事相手からは励ましてもらう場面のほうが多かったように思います。「実は私も」と打ち明けられ、腹を割って話せる関係性につながったこともありました。

外野に対して…誤解や無理解とはきっぱり距離を置く

仕事関係だけでなく親族や知人に対しても介護のことを話していましたが、時には心ない言葉に出合うこともありました。たとえば、「フリーランスだから時間あって介護しやすいね」「施設に入れたんだからもう介護していないようなもの」などです。そんなときには、介護の話題をそれ以上続けないと決めていました。幸い、介護について何でも話せて励ましてくれる友人がいたので、わかってくれない人に無理に理解を求めるのはやめて、自分が心地よい距離を保つようにしていました。

家族に対して…わかりあえない覚悟を決める

父の命や尊厳について一番分かち合いたいのはきょうだいでしたが、望むようにわかりあえなかったのもまたきょうだいでした。介護や医療の用語をインプットしてくれず「慰労」と「胃ろう」を勘違いしたままだったり、何かと理由をつけては「俺は無理」と逃げ回ったりする様子には、私の苦労をわかってくれないと感じることもありました。

それでも外野と違って、きょうだいとのコミュニケーションは完全にやめてしまうことはできません。「もう知らん」とあきらめながらも、自分たちの父のことなのだからいつかは自発的に動いてくれる、わかってくれるとどこかで期待も捨てきれませんでした。

今では、きょうだいであっても完全にはわかりあえないものだと覚悟を決め、心を乱されない距離を模索するきっかけになってよかった、ととらえています。

📍フリーランスでよかったこと
ケアマネジャー、介護士、看護師、医師、ソーシャルワーカー...と、介護では専門性も立場も異なるたくさんの人物と関わるようになりますが、私の場合、きょうだいに比べてこの複雑な状況を把握するのが早かったと感じます。それは仕事において案件の全体像を俯瞰する癖がついていたことや、誰かから指示されなくても自分から状況を理解しに動くという、フリーランスの働き方から身につけた力だったと思います。

【メンタル】「あいまいさ」から来る不安を徹底的になくす

フリーランスは会社員のように同僚がいないので、同じ立場で仕事と介護の両立について語り合える仲間を見つけづらいものです。時には孤独にえぐられるような感覚になることもあります。

けれども大切なのは、孤独をなくすことではなく、自分を保つための線引きをして、「健全な孤独」を得ることではないでしょうか。そしてそれは、自立して働くフリーランスだからこそ目指せるあり方だとも思います。

介護と自分の生活を混ぜない線引きルールを作る

父の入退院や施設入居などあわただしい時期に、「介護に生活を侵食されている」と感じて気持ちが暗くなることがありました。このままでは持たないと思い、介護と自分の生活に線を引くルールを作ることにしました。

たとえばお金に関しては、介護そのものや、介護のための帰省などで発生する費用について父か自分かどちらが負担するか徹底的に仕分けしたのです。線引きに従って支払いや精算をしていると心が軽くなり、「私ばっかり負担だ」と思うことも少なくなりました。

お金の出入りを可視化する

お金に関しては、介護についてと自分の生活についての収支の流れを整理して可視化することもやってみました。父は父の貯金でどれほど生活できるのか、私はどれくらい仕事が減ると生活に支障が出るのか把握したのです。

もちろん、どんな支出があっても揺るがないほどの蓄えがあるのが理想ですが、現実はそうもいきません。会社員と違って介護に使える有給休暇や介護給付金はないけれど、何か月くらいならこのくらい収入が減っても大丈夫、と把握することで、何かにお金を払うたびに湧き上がっていた漠然とした不安が薄れ、仕事をしなければとやみくもに思い詰めることもなくなりました。

SNS で日記をつけて吐き出す

「嫌なことを言われたら距離を置けばいい」と決めてはいても、心ない言葉をかけられたらしっかり傷つくし、父がわけのわからないことを言えばイライラするし、タスクが積み重なると余裕を失います。そこで、もともと書くことが好きだったのもあり日記を書いて気持ちを吐き出し、それをSNSで友達に公開しました。不思議と SNS の文にすると嫌だったことの半分くらいは笑い話になり、一緒に笑ってくれたり私より怒ってくれたりする友人のコメントに癒されました

書くことのもう1つの効用は父と自分の状態の客観視でした。たとえば「娘なのに一緒に住んであげないなんて、お父さんがかわいそう」と言われたことがあったのですが、父の病院に付き添った日の記録などを改めて見ると、私が仕事も子どもも捨てて同居したところで何の解決にもならないレベルだ、と冷静に理解できたのです。それなら介護はプロに任せて私は稼いで子育てしてた方が合理的、と納得でき、気持ちが楽になりました。

📍フリーランスでよかったこと
フリーランスは1人でいろいろな作業をこなし、気持ちや頭の「チャンネル」の切り替えを日常的に行っています。この習慣が、介護のなかでの感情の切り替えにも役立ちました。落ち込んだり焦ったりすることがあっても引きずらずに次の行動に移れたおかげで、長い介護のなかでも自分を保つことができたのだと思います。

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おわりに

先日、長年にわたる父の介護は幕を閉じました。父は生き切り、私も見送りをやり遂げたと心から思えたので、後悔はありません。

不安定だし、やめるも続けるも自分次第のフリーランス。けれども、自分で働き方を設計できるフリーランスだったからこそ、仕事と介護の両立を何年も続けられたのだと感じています。波がありながらも仕事を続けていたことで精神的にも経済的にも救われたのは間違いありません。

フリーランスの仕事と介護は両立できます。同じような状況にある人にも、どうか仕事を手放さないでほしいと思います。

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